はじめに
まず本書を手に取ってくださり、感謝申し上げます。本書は「気軽に読んでほしい」「その上でSe-yaのことを知ってほしい」という想いで執筆した小説のため、短時間で読み終えれる作品にしています。本書の特徴は下記の通りです。ぜひご参考ください。
- 初めての書籍作品 (処女作)
- 本ブログ限定で公開している「電子書籍」
- 著者の人生30年を元にした「青春小説」
- ノンフィクション80% / フィクション20%
- Se-ya ASMR活動の起源がわかる
プロローグ
この物語の主人公
己無 星夜 (おな せいや)
生後10ヶ月という若さで、命の危機が訪れる━━━━━。
1月17日(火)早朝5時47分頃
未曾有の大災害が、川の字で寝ていたとある家族を襲った。
悠々たる面持ちで眠る赤ん坊とは裏腹に、明らかな異変を察知した両親は即座に覚醒した。頑丈とは言い難くも、築浅で決して脆くないはずの我が家が大きく揺れ動き、キーキーと軋みをあげている。両親は動揺を隠せるはずもなく、軽いパニック状態に陥った。
しかし幸いなことに、次第にふたりの頭は冴えてきた。22時には就寝していたことで、しっかりと休めていたのだ。ごーごーという地鳴りの迫力は絶大で、ガタガタと揺れ動く家具たち、ガシャンと棚から飛び降りた食器たちが命の危険を知らせてくる。
「ガスは閉めてる!」
昔からガスの元栓を気にしがちだった母は、父にそう叫んだ。父は仕事カバンの中からヘルメットを取り出し、母の言葉に頷きながら返答した。
「お前はこれで頭守れ!」
ヘルメットが星夜の頭上を右から左へ通り過ぎ、母がそれを手にした瞬間。
あれは、突然やってきた・・・
第0章|己無 星夜
1994年3月2日
日本中の神々が1つのベッドに集って眠る街「神戸 / Kobe」に新たな命が誕生した。
1994年3月2日
日本中の神々が1つのベッドに集って眠る街
「神戸 / Kobe」に新たな命が誕生した。
氏名:己無 星夜 / Se-ya Ona
性別:男性 / Male
産声:ほぼ無し
体調:とても健康
目つき:わるい
出生体重:4545g
「こんなに健康で、こんなに態度も大きな赤ちゃんは初めてです」と、少し若めの担当助産師に言われた両親はなんだか誇らしげだった。特に父は、己無家の家業を継ぐ存在が生まれたと、病院中で騒ぎ立てる程だ。
星夜が生まれた夜は、珍しく星が綺麗に眺望できたようで、元気できらめく姿がいつまでも続くように、という意味が込められているらしい。
こうして星夜は己無家に生を受け、間もなく体調が回復した母、浮かれ気味の父の3人での生活が始まった。
第1章|己無家
出産・退院を機に賃貸契約したアパートは、築浅で丈夫な造りだったが窮屈だった。
大工のひとり親方を始めて3年ばかりの父は、車内に入りきらない工具類を自宅に持ち帰るのだが、繁忙期はそれらを廊下に置きがちだった。星夜に危険が及ぶような状態では置かれていなかったものの、母との事前の約束「仕事道具はすべて押入れの中に」の件で、両親はしばしば衝突していた。
父の言い分としては「押入れが狭すぎる」らしいが単なる横着だ。理想のマイホームの購入を目的に、双方合意の上で一時的に家賃を節約した結果が今のアパートらしいのだが… 元も子もない状況である。
とは言えアパートの内見は「育児を担当するのは私」ということで母主体でおこなわれ、父が約束するに至った判断材料は、母の言葉と、間取り図だけだった。
このふたりは衝突すべくして
激突しているのである。
出産前までの両親は「父:一人暮らし」「母:実家暮らし」で、これといった衝突はなかったらしい。星夜が生まれて3人での暮らしが始まり、一人きりになれる完全プライベート空間が失われたことで、両親の心の余裕はすり減り始めていたのだろう。
こうして決定打になるような大きなトラブルはないまま、両親は地道に互いの心を削り合った。結果、9年半に及ぶ時間をかけて、己無家の歴史には大きな区切りがついた。