\ ゆっくり見てってね〜 ٩(๑❛ᴗ❛๑)۶ /

【小説】スポットライト(仮) ※執筆中

第4章|人格形成

本章には少なからず暴力的な表現が含まれます。多くの方が読みやすいよう生々しい描写は控えておりますが、人によっては過去の記憶がフラッシュバックする可能性がございます。読み進めるのが少しでも困難と思われた方は、次の第5章へお進みください。

第1章で記した通り、両親はそれぞれ新たなスタートを切った。星夜と3つ下の弟「巧夜/Takuya」2人の親権は母に託された。弟に当時の記憶が残っているかは不明だが、間違いなく星夜にとってはそこに至る経緯が問題だった。不倫や思わぬ転勤など、大きなキッカケがあった訳ではない分、険悪なムードが長期間に渡って星夜を苦しめた。

就寝時間以降にふすまの奥から聞こえる口論、ストレスの吐口として振るわれる暴力、キッチンの換気扇では消しきれない両親のタバコの匂い… 長年に渡って繰り返されたこれらの記憶は、星夜の脳内に染み付いていた。忘れたくても絶対に忘れられない、強烈な記憶である。

他に残っている記憶といえば、親がいない時にひとりで(もしくは弟と)遊んでいた時のこと、家族4人でドラえもんを見ながら食卓を囲んだ時のこと、同じマンションに住む同年代の友達と遊んだこと、両親が怖かったことくらいで、家族4人が揃っている時の記憶はとても少ない。

もしかするとこの頃から、二重人格とまではいかなくとも、記憶をごっそり抹消する能力が培われたのかもしれない。というのも実は、両親が離婚した小学4年生の頃は当然ながら、それから中学2年生の終わりまでの記憶も、星夜にはほとんど残っていないのである。残っている記憶といえば、執拗に繰り返されたものばかり。

なぜ、10~14歳の記憶も少ないのか。

原因は、ブータロウである。

母が新たに借りた2階建ての安アパートで暮らし初めて数週間の頃、星夜は母に連れられたブータロウと対面した。年齢は星夜のひと回り上で、少しがっちりした体型のパワータイプだった。いつしかブータロウはアパートに泊まるようになり、気付けば住み着いていた。

初対面の頃は優しいゴリラという印象だったが、泊まり始めたあたりから星夜は若干の嫌悪感を抱いていた。小学4年生とは言えど、本能的に違和感を覚えたのだろうし、母への不信感も募っていった。母とよく喧嘩をするようになり、家の外に放り出されることが多くなったのは確かこの頃だ。

ブータロウは年々、その本性を顕にしてきた。

当初の体型は見る影もなくクソデブ化したり、一時期ではあるがクソ引きニート化したり、眉間にシワを寄せたクソブスな表情が増えたり、ドブの香りがする口から放たれるクソ暴言が増えたり、ヤンキー漫画のキャラクターになりきったクソ厨二病パンチが増えたり、半袖Tシャツとトランクス姿のクソ野郎が包丁を握りしめる、そんな場面が何度もあった。

首から上はビンタのみ
殴る蹴るは衣服で隠れる所だけ
誰かに気付かれることはなかった。

だからか星夜は
完全に1人きりになれる時間
就寝時間が毎日の楽しみだった。

「今日起きたことは悪夢だっ」

「今夜は良い夢を見れますように」

「自分、おやすみ!」

なるべくしてなったネガティブ思考から、自分の人生を肯定できる言葉をひねりだし、それを自分に唱えながら毎晩ベッドに向かっていた。まあ、良い夢を見れた試しはないのだけど、子供ながらの生存本能がそうさせていたんだろう。

このように星夜は、小学4年生〜中学2年生という「人格形成に多大な影響を及ぼす期間」をブータロウとも過ごした。周囲の目からは学校で軽いイジメにあっていたらしいが、本人がそれを自覚したことはなかった。

なんとかそれらしいことを思い返してもみても・・・背中をハリでチクチクされたり、前後から極端に寄ってきた机が自分のスペースを圧迫していたり、イスを引かれたり、足を引っ掛けられたり、悪口を言われていた?くらいのもの。

子供からのイジメなんて
大人からの虐待に比べたら
無いも等しいのである。

むしろ暴言を他人に吐くこと、手を出すことのハードルは下がり切っていたし、チカラで敵わない相手には無抵抗でいることが潜在意識に刻み込まれた。弱者にしか威張れない、へにゃちょこカスヤンキーの誕生である。

とは言え当時の星夜は、オトナはこういうものだと納得している節もあった。なぜならブータロウは、働いている時期にはゲームソフトを買ってくれたり、巧夜には比較的優しかったり、色んな面白いアニメや漫画を教えてくれたり、いわゆる「良い面」も存在していたからだ。

ただこの納得は大きな間違いだと、次第に星夜は気付き始める。ブータロウと母が険悪になる場面が増えて、ブータロウの「良い面」がいつしか消えさったことがキッカケである。

家のムードは最悪だった。最後の5ヶ月はブータロウとの会話はなかったし、星夜は自室にこもることがほとんどだった。ブータロウをなるべく刺激しないよう、忍び足で歩くことは当たり前だったし、お風呂やトイレはパッと済ませることが多かったし、巧夜との話し声を極力抑えるのは癖になっていた。

成人した頃の星夜に残っていた当時の記憶は、これらですべて。夢のマイホーム時代と同様、精神状態を少しでも良好に保つため、当時の頃から細かな記憶を抹消し続けてきたのだ。

嫌なことは1回寝れば80%
2回寝れば96%、3回で99%忘れる。

その場では瞬時に思考を停止させ
時の経過を待ち続け、耐えぬく。

嫌な人間と1度判断したなら
一切関わらないと即決断、実行する。

星夜はそんなメンタルケアスキルを
生きる力を、この頃に習得した。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

この記事をシェアする
目次