第5章|幕開け
中学3年生に進学した頃から
星夜は大きく変わり始めた。
負の回避がすべての原動力だったが
自分のために行動できるようになった。
封印し続けてきた自我が目覚め
欲求に従えるようになった。
見える世界に次第に色がつき
視野が大きく広がったのである。
中学2年生の終わり頃、同じ小・中学校へ通える別の家に3人は移住した。2階建てのメゾネットタイプ、各々の部屋が用意されていた。星夜は「せまい方が落ち着く」と母に希望した。収納スペース付き6畳の洋室が弟、押入れ付き6畳の和室が母の寝床となった。
星夜は収納スペースのない真四角4.5畳の洋室を選んだ。ベッドが部屋の4割、勉強机が1割を占める監獄みたいな部屋だったが、居心地は最高だった。毎晩ぐっすりと眠れていた。近くの田んぼから聞こえるカエルの鳴き声は程よくて、聴き心地がよくて、何度も睡眠用BGMとして使った。
「今夜こそは良い夢を見れますように」
なんて━━━━━
いつしか考えなくなっていた。
またこのタイミングで、母だけ戻していた旧姓に兄弟も合わせることにした。家庭裁判所には伝えるはずもなかったが、旧姓への変更理由は「縁起」だった。母の旧姓は「新/Arata」このタイミングがベストと判断したのだ。
新 星夜 / Arata Seya
ここからが、俺の人生である。